1点に泣き、1点に笑う
得点が1点、2点、3点、4点だから、
野球には「1点に泣く」というフレーズがあります。
好投手相手で点を取れなかった時、
乱打戦になって競り負けた時などに使われます。
ラグビーで、このフレーズが使われることはありません。
ラグビーの得点は2点、3点、5点、7点で、
ゴールキックの2点はトライの5点とセットのため、
その計7点となります。
1点差ゲームになりにくい得点構造なのです。
ところがである。
今回のW杯で優勝した南アフリカは、
ベスト8(対フランス)、準決勝(対イギリス)、
決勝(対オールブラックス)の3試合を、
すべて1点差で勝ちました。
フランスは開催国で、悲願の初優勝がかかっており、
フランス国内のテレビ視聴率が60%を超え、
他国が圧倒されるほどの国民からの後押しがありました。
イングランドは前回準優勝でありながら、
大会前にエディー・ジョーンズHCが解任される危機的状況から、
伝統の戦い方「これぞ英国ラグビー」の徹底で復調。
北半球唯一のベスト4に残り、
いつもは犬猿の仲のフランス国民も味方についていました。
オールブラックスは「史上最弱」との前評判を覆して、
大会中に毎試合ごと、強度と完成度が高まっていき、
予選で南アを倒した世界1位のアイルランドを僅差で破りました。
28年前の決勝で南アに敗れており、
その雪辱を果たしそうな勢いがありました。
物語性が強いのは南アの対戦チームであって、
良くできた脚本なら、
1点差で勝つドラマを引き寄せるのは対戦チームです。
しかし、南アは滅多に起こらない1点差ゲームを
3試合続けて自分たちのものにしました。
ドラマを超えたドラマがありました。
あのプレーがイエローカードでなかったら…
あのキックが決まっていれば…
あのトライが認められていたら…
敗れた選手たち、ファンたちが心底悔やむ
いくつもの「たられば」…
南アにはそれがありませんでした。
1点に笑いました。
この3週間、3戦の後、
南アのファンは気分は最高だったに違いありません。
1995年、南アフリカで開催されたラグビーW杯。
「ラグビーで、この国を1つにしたい」
その前年に南アフリカ史上初の全人種参加選挙で
ネルソン・マンデラ大統領の不撓不屈の思いを汲んで、
南アフリカチームは悲願の初優勝を果たしました。
その大会で、日本代表はニュージーランドに145点を取られ、
歴史的な大敗をしました。
28年前に比べると、日本代表は夢のように強くなりました。
2015年のW杯では、南アフリカに勝ちました。
しかし、オールブラックスには、
まだ一度も勝ったことがありません。
4年後のW杯では、なんとか勝って欲しい!
できれば、1点差で。