ブログ 2012/11/29

バッティングセンター

むしゃくしゃすることが山積し、   
酒を飲むにしてはまだ早かったので、
バッティングセンターへ足が向かった。
         
いろいろな人がいた。
   
「このヤロー!」
「このヤロー!」
 
   
一球一球、叫びながら打っている中年サラリーマン。
   
3塁方向、1塁方向と左右に
バントだけを繰り返しているサラリーマン。
  
120kmのゲージで、大人顔負けの鋭い当りを連発する野球少年。
     
その少年に、時々、アドバイスしているお爺ちゃん。      
その顔をよく見ると、荒川博さんだった。

(知らない方のために説明しておくと、
世界のホームラン王:王貞治さんを育てた方です)

少年の構えは懐が深く、
スイングは閃光を放ちながら美しい弧を描いた。
彼の手に握られたものが日本刀に見えた。

少年の隣りのゲージの中学生らしき少年に
突然、荒川さんは声をかけた。

「手首を少し高く!」 

その中学生は怪訝そうに振り返った。
「誰?」という顔だった。

荒川さんは知らない少年に声をかけたのだ。

「なんだよ、この爺さん」という表情を見せながらも、
中学生は構えた手首を少し高くした。

彼の打球が、俄然、変わった。

何球か打って、自分の変化に驚いた中学生は
喜びの笑みを浮かべ、荒川さんを振り返った。

「ナイスバッティングだ!」      
荒川さんは、少年のような笑顔で、うれしそうに言った。

嗚呼……俺は何をしてるんだ!

私は、一振りもすることなく、
すぐにオフィスへ戻った。

荒川さん、ありがとうございます。