車両部
ロケ撮影日の朝は早い。
まだ暗いうちに集合し、ロケバスに乗って出かける。
車内で会話があるのは最初の数分だけで、
多くの人々がすぐに眠りつく。
ロケ終了後にいたっては、
疲労と安堵感のミックスで、道中を眠る人の割合は限りなく100%だ。
助手席で寝ている制作の人も多い。
その間、車両部と呼ばれる運転手さんが
スタッフやクライアントさんを目的地へと運んでくれる。
運転する人は分かると思うが、
車内で寝られると眠気がうつってくる。
眠気は感染しやすい。
だから、
くねくねの山道、雨の高速道路の時などは、
緊張して眠れない。
運転手さんがアクビをしていないか、
目をしばたたかせていないか、
つい、バックミラー越しに見てしまう。
運転席の横のカップホルダーに
マムシドリンクを並べたい衝動に駆られる。
なぜなら、撮影現場では、いろんなことが起きるからだ。
撮影途中に、外国人出演者が「契約内容と違う」と怒って帰ったことがある。
照明が落ちてきて頭に直撃したことがある。
撮影の合間の食事中に役者さんが足を骨折したことがある。
撮影中に監督が食中毒で救急搬送されたことがある。
しかし、今のところ、
ロケバスが事故を起こしたことは一度もない。
先週からロケが続いているが、
無事に現場に行き、無事に帰って来られている。
撮影終了後に俳優部が花束と拍手で見送られるように、
ロケの集合場所に安全に戻って来た車両部は
拍手喝采で見送られても良いのではないかと思っている。
車両部は、
ロケ現場を支えている陰の立役者である。