その日は暖かったこともあり、
平日の昼間にも関わらず、
大勢の花見客で道はごった返していた。
カタツムリのような歩行で、
なかなか駅へたどり着かない。
時々、風が吹くと、桜吹雪が舞い、
人々から歓声があがった。
前方に車椅子に座る老齢の女性がいた。
後ろから押している中年の女性。
母と娘なのだろう。
娘さんは見事な桜に見とれていた。
座っているお母さんからは、
人混みの間からチラとしか見えなかったか、
まったく見えていなかったのだろう。
突然、立ち上がり、桜を見ようとヨロヨロと歩き出した。
それを見た娘さんが歓喜の声を上げた。
「クララが立った!
クララが立ったよ!」
娘さんの叫び声で、お母さん自身も自分の行動に驚き、
顔をくしゃくしゃにして笑った。抱き合って喜ぶ母と娘。
娘さんは急いで近くの人にカメラを渡し、記念写真を撮ってもらった。
その目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
圧倒的なものは、人を動かす。
奇跡を起こす。
きっと、広告だって。