ブログ 2012/02/25

雨と首コルセットと女性と 4

 

「いたぞっ!」

友人のライオン丸チームの警官が叫び、駆け出した。
ライオン丸の懐中電灯が、一瞬、溝女を照らした。
しかし、野人のごとき速さで移動する溝女。
住宅街ゆえに、各住宅が懐中電灯の光を遮り、すぐに姿を見失う…。

「あっちだ!」

体力的に追いつけず、遅れた到着した社長さんが暗闇の中に溝女を見つけた。
やはり異常な視力だ。私の懐中電灯が姿を、一瞬、捕らえた。
駆け出すパートナーの警官。
しかし、もうそこにはおらず、あさっての方向から現れた野人溝女。
いつの間に!?

本当に神出鬼没だった。
下着姿のまま、素足で、暗闇を音もなく走り回っていた。
その顔に笑みを浮かべて…。こ、恐い…。

静かな住宅街で大声を出していたので、
さすがに住人の主婦たちが出てきた。

「何事ですか?」

すかさず警官が叫んだ。

「危ないから家から出ないでくださいっ!」

各戸のドアが一斉に閉まり、いろんな所の鍵が掛かる音が響いた。

えーーーーっ!!!??? そんな状況なの???

首にコルセットをした怪我人なのに、
もう後には戻れない状況に完全に巻き込まれていた…。
「あっちだ!」 

またもや社長さんが暗闇に見つけた。
なぜ、見える!?
暗視スコープをつけているとしか思えなかった。

挟みうちにするために、二手に分かれて追いかけた。
首にコルセットをしているとはいえ、現役でラグビーをやっていた頃の話しだ。
体力にも、走力にも自信があった。
しかし、野人溝女は速かった。無尽蔵のスタミナだった。
50m6.1秒の私が追いつけないのだ…。

その時、タイミングよく廻り込んだライオン丸のチームが
溝女の目の前に飛び出てきた。
住宅街に来てから、一番、接近できた瞬間だった。
驚いた溝女の足が止まった。
ここぞとばかり、前後から警官が飛びかかった!

しかし、溝女の全身は雨で濡れていた。
オイルレスリングを見るような展開になった。
警官の4本の手をヌルリとかわし、溝女は再び闇夜に消えて行った。
静まる住宅街に、我々4名の荒い息づかいと絶望が残った…。

「これを使ったらどうだろう?」

体力的な問題で、この捕り物を離れた所から見ていた暗視スコープ社長が、
立ち尽くす我々に声を掛けてきた。
ランニングシャツ姿の社長は、羽織っていた毛布を両手に広げていた。

名付けて、

グルグル巻き大作戦

優れたアイデアは状況を一変させる。
我々は絶望の淵から希望を取り戻した。
疲れも吹き飛んだ。
根拠のない自信が全員の中に芽生えていた。

「確保できる!」

片方の警官が叫んだ。

そして、これは、これから起きる事件の前奏でしかなかった。
(つづく)