ブログ 2011/12/22

師走の新幹線 その2

品川駅で降りようとした時だった。
後ろから

ドス!ドス!ドス!ドス!
と地鳴りがした。
振り返ると、Yシャツ姿の太めのオジさん(たぶんヅラ)が血相を変えて
こちらに走って来ていた。

危険な臭いがしたので、とっさに脇へ避けた。
オジさん(たぶんヅラ)は出口付近で立ち止まると、
「ブツブツブツ…」と何かを言いはじめた。

近づくと、オジさん(たぶんヅラ)が文句を言っていることが判明。
「ぶつかっといて、なんも言わんとはどういうことや…」

わずかではあるが、さっき私もオジさん(たぶんヅラ)にぶつかった。
でも、正確に言えば、オジさん(たぶんヅラ)がぶつかって来たのだ。
こちらが謝る必要はない。

すると、出口に並んでいた黒いコートを着たビジネスマンのオジさん(自毛)が
振り返りざまに
「おまえがぶつかって来たんだろーが!」と捨て台詞を吐いて出て行った。

ブチッ! 
とオジさん(たぶんヅラ)から音がした。

品川駅のホームに降り立ったオジさん(自毛)のショルダーバッグを引っぱり、
「オマエ、ナニぬかしとんじゃーっ!」
とオジさん(たぶんヅラ)は叫びながら、オジさん(自毛)を車内に引きずり戻した。

よく見ると、オジさん(たぶんヅラ)はただの太めではなかった。
まくり上げたYシャツから出ている二の腕はボンレスハムのごとし。
細マッチョではなく、太マッチョである。

オジさん(自毛)も体格は負けていない。
奪われかけたショルダーバッグをグイと引っ張り返し、
また、ホームに降り立った。
もし、このシーンから見始めた人は、
オジさん(自毛)は、ひったくり強盗に見えただろう。

オジさん(たぶんヅラ)は一瞬驚いた表情をした。
腕力には相当の自信があったのだろう。

慌てて缶に入ったホウレンソウを食べ、ポパイのテーマを口ずさみ、
再びオジさん(自毛)を車内に引き戻した。
この2人が綱引きで同じチームになったら、無敵だろう。

でも、何に感動したかと言えば、
このショルダーバックの頑強さだ。
こんな2人に引っ張られても、涼しい顔だ。
次にバッグを買う時は、ぜったいにこれを買おうと決めた。
クリスマスプレゼントをまだ購入していないご婦人方にもオススメしたい。

発車のベルが鳴った。
結末を見届けたいが、プレゼン前の大事な打ち合わせ時間が迫っているので、
どうしても品川で降りなければいけない。

聞いてはもらえないだろうとは思いつつ、
一応、「すみません。降ります」と声をかけてみた。
オジさん(たぶんヅラ)とオジさん(自毛)の
どちらともつかない微妙な間合いに。

ところが、二人とも、さすがはネクタイをしたビジネスマンだ。
綱引きをしながらも、「あっ、すみません」的な会釈があり、
目の前にわずかながらの細い道ができた。

急いでホームに飛び降りた。
両足がホームに着いた時、
このまま降りられない状況が続くことをどこかで願っていた自分に気づいた。

再びホームに戻ったオジさん(自毛)が、
またもや車内に引き戻されたところで扉が閉まった。

東京駅周辺で打ち合わせを組むべきだった。

忘年会シーズン。
皆さま、鬱憤が溜まったビジネスマンにはご注意を!