ブログ 2012/03/08

雨と首コルセットと女性と 7

先週から続いている20年前の実話である。
 
 
ピクリとも動かない溝女。
重い沈黙が続いていた。
空気はどんより湿っていた。
  

ンゴーッ、ンゴーッ、ンゴーッ!

突然、静寂は破られた。
絶命したかと思われていた溝女が、大きなイビキをかき出したのだ。

えっ、気絶だったの…?

全員から一斉に出た安堵のため息が緊張の糸を切った。
眼鏡曲がり警官は、その場にヘナヘナとしゃがみこんだ。
確かに、「ヘナヘナ」という音が聞こえた。
泣き出すんじゃないかと思ったが、さすがに泣きはしなかった。

他の警官が声をかけ続けるも、結局、溝女は目覚めず…。

目覚めた時に再び暴れることが予想され、
溝女は「す巻き」のように、もう一枚の毛布にグルグルに巻かれた。
それを警官たちが担いで、ワゴン車に載せた。

すべてが終わった。

懐中電灯をパートナーの警官に返し、
暗視スコープ社長にお礼を述べ、帰ろうとしたところ、
応援で来た警官の一人から呼び止められた。

「キミたち、ちょっと一緒に署まで来てくれる?」

「どうしてですか?」

「詳しく事情聴取をしたい」

「さっき、もう話しましたよ」

「それとは別。もう一度、聴きたいんだ」

<尊大な態度>の実例としてマナービデオに収録されていそうな物言いだった…。

「僕たちは車で来ています。お腹も減っています。首にコルセットもしています。
事情聴取がしたければ、アナタが僕らの家に来ればいい。
住所は、そちらの警官が知っています」

「そう言わずにさぁ~。学生さんでしょ? すぐに終わるからさぁ~」

肩に手をかけてきた。
これまた、<初対面でも馴れ馴れしく対応>の例としてマナービデオに収録されているに違いない。

「嫌です。このままだと風邪ひきますから」

実際、かなり濡れていた。

すると、友人の相棒だった警官がワゴン車からタオルを持って、走って来た。

「彼女が目を覚まして、この保護に関していろいろと言い出した時、
事前に証言がないと困るんです」

マナービデオに出演している警官は、彼の上司か先輩なのだろう。
元相棒は目で必死に訴えかけてきた。「頼むから署まで来てくれ」と。

「自分たちの車で来て頂いても構いませんから」

元相棒はそう言いながら、「頼む!頼む!」と何度か目配せもしてきた。

短い間ではあったが、仲間だった者を助けるつもりで、
我々は渋々と了承した…。

彼だけが礼を言い、マナービデオの男は「当然だ」と言わんばかりの
横柄な態度で無言でワゴン車に乗り込んだ。

「やっぱり行かない」
「頼む!」

結局、我々は車で25分程の距離にあった
地域拠点である×××警察署に向かうことになった。
モスグリーン車に助手席側から乗り込んだ友人の髪は、
雨でびっしょり濡れていたが、まだ逆立ったままだった…。

そして、これから新たな事件が起こるのだった…。
(つづく)