ンゴーッ、ンゴーッ、ンゴーッ!
突然、静寂は破られた。
絶命したかと思われていた溝女が、大きなイビキをかき出したのだ。
えっ、気絶だったの…?
全員から一斉に出た安堵のため息が緊張の糸を切った。
眼鏡曲がり警官は、その場にヘナヘナとしゃがみこんだ。
確かに、「ヘナヘナ」という音が聞こえた。
泣き出すんじゃないかと思ったが、さすがに泣きはしなかった。
他の警官が声をかけ続けるも、結局、溝女は目覚めず…。
目覚めた時に再び暴れることが予想され、
溝女は「す巻き」のように、もう一枚の毛布にグルグルに巻かれた。
それを警官たちが担いで、ワゴン車に載せた。
すべてが終わった。
懐中電灯をパートナーの警官に返し、
暗視スコープ社長にお礼を述べ、帰ろうとしたところ、
応援で来た警官の一人から呼び止められた。
「キミたち、ちょっと一緒に署まで来てくれる?」
「どうしてですか?」
「詳しく事情聴取をしたい」
「さっき、もう話しましたよ」
「それとは別。もう一度、聴きたいんだ」
<尊大な態度>の実例としてマナービデオに収録されていそうな物言いだった…。
「僕たちは車で来ています。お腹も減っています。首にコルセットもしています。
事情聴取がしたければ、アナタが僕らの家に来ればいい。
住所は、そちらの警官が知っています」
「そう言わずにさぁ~。学生さんでしょ? すぐに終わるからさぁ~」
肩に手をかけてきた。
これまた、<初対面でも馴れ馴れしく対応>の例としてマナービデオに収録されているに違いない。
「嫌です。このままだと風邪ひきますから」
実際、かなり濡れていた。
すると、友人の相棒だった警官がワゴン車からタオルを持って、走って来た。
「彼女が目を覚まして、この保護に関していろいろと言い出した時、
事前に証言がないと困るんです」
マナービデオに出演している警官は、彼の上司か先輩なのだろう。
元相棒は目で必死に訴えかけてきた。「頼むから署まで来てくれ」と。
「自分たちの車で来て頂いても構いませんから」
元相棒はそう言いながら、「頼む!頼む!」と何度か目配せもしてきた。
短い間ではあったが、仲間だった者を助けるつもりで、
我々は渋々と了承した…。
彼だけが礼を言い、マナービデオの男は「当然だ」と言わんばかりの
横柄な態度で無言でワゴン車に乗り込んだ。
「やっぱり行かない」
「頼む!」
結局、我々は車で25分程の距離にあった
地域拠点である×××警察署に向かうことになった。
モスグリーン車に助手席側から乗り込んだ友人の髪は、
雨でびっしょり濡れていたが、まだ逆立ったままだった…。
そして、これから新たな事件が起こるのだった…。
(つづく)