ブログ 2011/12/21

師走の新幹線

新幹線で移動中、
電話がかかってきたので、車両間のスペースに移動していた。
ちょうど名古屋駅に着いた頃だった。

乗って来たオジさんが、
そのまま洗面所へ駆け込み、リバース(吐く)をしはじめた。

「オエーッツ!オエーッツ!オエーッツ!」

すごくハッキリと声を繰り返し出しながら、すごい量のリバースだった。

ふと、ある光景を想い出した…。

数年前の秋、夜のお寺でのロケ撮影のため、京都駅にいた。
一緒に乗っていた監督が、いつまで経っても集合場所に現れない。
トイレにしては、長過ぎる…。

「寝過ごして、新大阪まで行ったんじゃないか!?」
制作スタッフの誰かが言った。

のぞみは速い。
新大阪までなら10分で着く。
時間的には、もう新大阪は出ている。
岡山まで行ってしまったのか…。
だとすると、ロケには間に合わない。
慌てた若手の制作が監督の携帯に何度もかけるが、
まったく反応がない…。

仕方ないので、ロケ地へ移動しようとしたところ、
「お待たせーっ!」
にこやかに手を振りながら、その監督が現れた。

「何してたんですか? 心配したんですよ!」
「そばを食べてたんだ」
「え!?」
「めちゃくちゃ腹が空いててねぇ~」

夜になり、ロケの1カット目がはじまった。
「カット! オッケー」
いつもは大きな声でOK!を出す監督が、蚊の鳴くような声だった。

「ちょっと気持ちが悪くなった…」
そう言い残し、とても広い境内の、かなり遠く離れたトイレに行った。

フラフラと戻ってくると、顔面蒼白になっていた。
「リバースした…」
「大丈夫ですか!?」
「すごい寒気もしてきた…」
「風邪じゃないですか?」
「この寺に来た途端、ゾクッときたから、
霊に取り憑かれたに違いない…」
自分が弱っていても、周りを笑わせようとする人を私は尊敬する。

結局、2カット目を撮り終えたところで、監督はギブアップ。
救急車が呼ばれた。

当面、急ぎの仕事のない私が、
救急車が来る遠い門のところまで、監督を送ることになった。

道中、監督が立ち止まり、
「レロレロレローッ!」
とナイアガラの滝にも負けないリバースをした。

10m進んでは、
「レロレロレローッ!」

これが5~6度は続いた。

あんなに大きな声を出しながら、
あんなに大量にリバースした人間を後にも先にも見たことがない。

笑ってはいけないと思うと、笑ってしまうのが人間だ。
お葬式で、必ず一人は笑っているのを見れば分かる。

「だ、だいじょうぶ、プッ、ですか?
す、プッ、す、ごい、すごい量ですね、ギャハハハ…」
もう耐えきれず、声を出して笑ってしまった。

「腹も痛んだから、笑わせないでよ~」
と言いながら、監督自らもゲラゲラ笑い出した。

「これは、風邪じゃないですよ…」
「やっぱり霊かな…」
「食べ物にあったたんじゃないですか?」
「でも、今日は朝から「にしんそば」しか食べてないよ…」

駅で食べた「にしん」にあたった監督が緊急入院になり、
その夜の撮影は中止になった。

翌日、さらに大事件が起きる。
(そして、それが電通を辞めるきっかけになる。
それはまた別の機会に)

すっかり忘れていたあの光景を
師走の新幹線で思い出した。
この華厳の滝のオジさんは、何を食べたのだろうか?

忘年会シーズン。
皆さま、胃腸を大切に!