監督と次のシーンの演出方法を議論している緊迫した状況で、
「え~、撮影とは関係ないのですがぁ~!」
とスタッフの一人が突然、大声を張り上げた。
そこにいたほぼ全員が
(関係ないなら、大声出すな!)と内心は思った。
「このスタジオに、ジャガーに乗って来られた方はいますか?」
(ハザードランプか、ライトの消し忘れか?)
「サンルーフが思いっきり開いてます。
先程から、かなり強い雨が降ってます~!」
ヒョエエ~!
深夜に撮影を終え、
ドロドロに疲れ果てた身体を抱えて、
クルマに乗り込む。
ビショビショに濡れた、
場合によっては水溜りと化した車内。
慌てて見上げると、サンルーフが空いている…。
絶望のズンドコ。
高校の夏休みに部活を終えて帰宅し、
冷蔵庫の麦茶を一気に飲んだら
素麺の出し汁だった以上の絶望だ。
現場に、動揺の混じったような笑い声が響いた。
みんな想像したのだろう。
でも、他人の不幸は蜜の味。
笑いを抑えることもできなかったのだ。
深夜、無事に撮影を終え、
「近所まで送ってあげる」という親切な申し出があり、
その方がクルマを停めている駐車場所へ向かった。
その方の隣りが、ジャガーだった。
そして、
サンルーフは、まだ開いていた…。
夏は、忘れられない想い出を残す。