街灯が作り出した彼女の影が、ネコの形になっていたのだ…。
見間違えたのだと思って(そう思いたくて)
再び見た。
影に耳があった。
間違いなく、人間の影ではなく、ネコだった。
目が合うと、彼女はスッと闇に消えて行った。
それを追うようにネコたちも消えた。
昨深夜、丑三つ時。
空には大きな上弦の月が鈍く輝いていた。
自転車で帰宅中、家の近所の登り坂にさしかかると、
「二ォ~」「ミョ~」と妙な鳴き声を発している野良ネコ集団に遭遇した。
「春だからサカリがついたのだろう」と、
「それにしても数が多いな」と思いながら歩いていると、
前方に中年の女性が歩いていた。
彼女は小型のトートバックを手に提げており、
彼女の歩く速度に合わせて
遠巻きにしているネコたちも移動していることが分かった。
エサをあげているのだ。
そのことに気づくと、
次に、ネコたちの新参者に対する攻撃的な視線に気づいた。
「オマエ、横取りするつもりか!」
「とんでもない…」
そうつぶやきながら、やけに歩みの遅い女性を追い越した。
こんな時間に歩いているのは、きっとご近所さんなので、
軽く会釈をしてみたが、まったく反応はなかった。
街灯が作り出した彼女の影が、ネコの形になっていたのだ…。
見間違えたのだと思って(そう思いたくて)
再び見た。
影に耳があった。
間違いなく、人間の影ではなく、ネコだった。
目が合うと、彼女はスッと闇に消えて行った。
それを追うようにネコたちも消えた。
もう煙が出るくらいに必死にペダルをこいで逃げた。
近所にネコ女がいた。
こちらが気づいことに、向こうも気づいた。
待ち伏せされたらどうしよう…。
ドラキュラがニンニクや十字架を嫌がるように、
ネコ女が嫌がるものは何かと調べてみたら、
ラッパのマークの正露丸の臭いが苦手らしい…。
私は、これからしばらく正露丸臭いです。